【備忘】Black-Scholes-Mertonの公式の証明

今回は完全に自己満足な記事となっておりますので、その点ご留意ください。

おはこんばんにちは。運用部ではないにしろ投資顧問会社で働いているとデルタやセータなどのグリークスに出会うことがあります。そんな時、そもそもブラックショールズ方程式ってどうやって証明するんだっけと思うことが良くありました。そこで、この記事ではジョン・ハルのフィナンシャルエンジニアリング(第7版)の第13章付録にあるBlack-Scholes-Mertonの公式の証明を復習したいと思います。

フィナンシャルエンジニアリング―デリバティブ取引とリスク管理の総体系

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補題の証明

まず証明に必要な補題の証明を行いたいと思います。

(ジョン・ハル「フィナンシャルエンジニアリング(第7版)」P453より)

Vが対数正規分布に従い、lnV標準偏差wであるとき、 E[max(V-K,0)]=E(V)N(d_{1})-KN(d_{2})\tag{13A.1} が成り立つ。ここで、

 d_{1} = \frac{ln[E(V)/K]+w^{2}/2}{w}

 d_{2} = \frac{ln[E(V)/K]-w^{2}/2}{w}

であり、Eは期待値を表す。(引用終了)

なお、Kは定数です。

証明

g(V)V確率密度関数とします。このとき、期待値の定義から \displaystyle E[max(V-K,0)]=\int_K^{\infty} (V-K)g(V)dV\tag{13A.2} となります。なお、右辺の積分区間Kから\inftyとなっているのは、K\leqq0max(V-K,0)0であるからです(書いてもいいけど省略している)。Vは対数正規分布に従うので、その期待値mは、 m=ln[E(V)]-\frac{w^{2}}{2}\tag{13A.3} となります。ここで、Qを、 Q=\frac{lnV-m}{w}\tag{13A.4} と定義すると、この変数は期待値0標準偏差1.0の標準正規分布に従います(Vは対数正規分布に従うのでlnV正規分布に従う)。要は対数変換したのち、正規化したということです。なので、密度関数h(Q)は、 h(Q)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\exp(-Q^{2}/2) となります。(13A.4)を用いて、(13A.2)式の右辺の積分VQに変数変換すると、以下のようになります。まず、(13A.4)をlnVについて解くと、

lnV=Qw+m

となり、ここから

V=e^{Qw+m}

となります。また、(13A.4)をVについて微分し、dVについて解くと、

dV=wVdQ

が得られます。Vは対数正規分布に従うので、その確率密度関数g(V)は、

g(V)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}w V}exp\{-\frac{(lnV-m)^{2}}{2w^{2}}\}

なので、これらを(13A.2)に代入し、

\displaystyle E[max(V-K,0)]=\int_{(lnK-m)/w}^{\infty} (e^{Qw+m}-K)\frac{1}{\sqrt{2\pi}w V}exp\{-\frac{(Qw+m-m)^{2}}{2w^{2}}\}wVdQ

整理すると、

\displaystyle E[max(V-K,0)]=\int_{(lnK-m)/w}^{\infty} (e^{Qw+m}-K)h(Q)dQ

が得られます。上式を書き換えると、 \displaystyle E[max(V-K,0)]=\int_{(lnK-m)/w}^{\infty} e^{Qw+m}h(Q)dQ-K\int_{(lnK-m)/w}^{\infty}h(Q)dQ\tag{13A.5} が得られます。ここまではmax(V-K,0)の期待値を変数変換しただけです。ここで、

e^{Qw+m}h(Q)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{(-Q^{2}+2Qw+2w)/2} \\ =\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{[-(Q-w)^{2}+2m+w^{2}]/2}\\=\frac{e^{m+w^{2}/2}}{\sqrt{2\pi}}e^{[-(Q-w)^{2}]/2}\\=e^{[-(Q-w)^{2}]/2}h(Q-w)

となるので、(13A.5)式は

\displaystyle E[max(V-K,0)]=e^{m+w^{2}/2}\int_{(lnK-m)/w}^{\infty} h(Q-w)dQ \\ -K\int_{(lnK-m)/w}^{\infty}h(Q)dQ\tag{13A.6}

と書き換えられます。N(x)を標準正規分布の累積密度関数とすると、(13A.6)式の最初の積分Q(lnK-m)/w-w以上になる確率なので、

 1-N[(lnK-m)/w-w]

つまり、正規分布の対称性から

N[(-lnK+m)/w+w]

と表すことができます。(13A.3)式をmに代入すると、

N(\frac{ln[E(V)/K]+w^{2}/2}{w})=N(d_{1})

になります。同様に(13A.6)式の2番目の積分N(d_{2})となる。よって、(13A.6)式は

E[max(V-K,0)]=e^{m+w^{2}/2}N(d{1})-KN(d_{2})

となり、(13A.3)式を代入すると証明完了。

Black-Scholes-Mertonの結果

ここまでこれば8割がた証明は終わっています。時点Tに満期を迎える配当のない株式に対するコールオプションを考えます。行使価格をK、無リスク金利r、現在の株価をS_{0}ボラティリティ\sigmaとします。コール価格cはこのコールオプションで得られる便益を無リスク金利で割り引いた値となります。

c=e^{-rT}E[max(S_{T}-K,0)]

ここで、S_{T}は時点Tにおける株価で対数正規分布に従います。Eはリスク中立世界における期待値を表しています。さらに、E(S_{T})=S_{0}e^{rT} *1lnS_{T}標準偏差\sigma \sqrt{T}となります。先ほどの補題より(13A.7)式は、

c=e^{-rT}[S_{0}e^{rT}N(d_{1})-KN(d_{2})]\\=S_{0}N(d_{1})-Ke^{-rT}N(d_{2})

ここで、

\displaystyle d_{1}=\frac{ln[E(S_{T})/K]+\sigma^{2}T/2}{\sigma\sqrt{T}}=\frac{ln(S_{0}/K)+(r+\sigma^{2}/2)T}{\sigma\sqrt{T}}

\displaystyle d_{2}=\frac{ln[E(S_{T}/K)]-\sigma^{2}T/2}{\sigma\sqrt{T}}=\frac{ln(S_{0}/K)+(r-\sigma^{2}/2)T}{\sigma\sqrt{T}}

これで、Black-Scholes-Mertonの公式を導出できました。

*1:リスク中立世界においては、すべての人はリスクに関して無差別であるから、投資家はリスクに対する見返りを要求しない。よって、全ての証券の期待収益率は無リスク金利となる。